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第八話 天才剣客あらわる②

last update 最終更新日: 2025-06-13 17:31:09

「ごめんなさい」

 雛は須田に素早く強烈な一撃をくらわす。

「くはっ……」

 今までと比べ、格段に速いその剣さばきに、須田は避けることができなかった。

 速さと打撃の威力が今までのものとは比べ物にならない。

 雛の攻撃をくらった須田は、その場で膝をついた。

 勝負はまだついていない。

 どちらかが戦闘不能になるか、負けを認めるまで戦いは続く。

 観衆は雛の攻撃に驚き、皆が固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた。

 まさかここまで雛が強いとは皆、夢にも思っていなかった。

 そんな中、宇随と神威だけが試合を冷静に見つめている。

 すると、しばらく動かなかった須田が震える体で必死に立ち上がろうとしていた。

 その様子を見ていた雛が須田に声をかける。

「これ以上、あなたを痛めつけたくはない。どうか負けを認めてください」

 須田は歯を食いしばりながら顔を上げると、雛を睨んだ。

「先ほど、言ったでしょう……。

 僕は、負けるわけには、いかないんだっ」

 やっと立ち上がった須田は、先ほどの攻撃でかなりのダメージを受けており、ふらついてしまう。

 たった一撃くらっただけでこれほどの威力があることに、須田も驚きを隠せない。

 実力の差は明らかだった。

 大馬鹿者でないかぎり、須田に勝機はないとわかるだろう。

 そんなことはわかっていた。

 しかし、どうしてもあきらめきれない、あきらめてはいけない。

 母や弟たちが待っている。

 その想いが、彼に力を与えた。

「僕は、あなたを倒す! 僕は、負けない!!」

 力を振り絞り、須田は雛に向かっていった。

 雛も、その覚悟に応えるかのように目つきが変わった。

 それは一瞬の出来事だった。

 雛が姿を消し、次に須田が呻いたかと思うと、雛は忽然と須田の目の前に立っていた。

 そして、ゆっくりと倒れる須田を雛は優しく支え受け止めた。

 審判が須田の様子を確認しに、二人のもとへ近づいていく。

「勝者、斎藤雛!」

 その瞬間、歓声が沸き起こった。

 口々に雛を称賛する声が聞こえてくる。

 その中には、雛の力を目の当たりにし、愕然とし怯える者もいた。

 宇随は自分のことのように喜び、周りに自慢して回った。

「あいつ、ここまでとはな。すごいだろ、俺のダチだぜ!」

 周りは宇随に同調し、小さく何度も頷いている。

 ざわつく観衆の中で、ただ一人冷静な目で静かに雛を見つめている者がいた。

 神威だ。

 あいつの実力は、あんなものではない。

 あの剣さばき、身のこなし、スピード。

 どれをとっても今まで出会ったことがない。

 これは――初めてライバルと呼ぶに相応しい奴が現れたのかもしれないな。

 神威は嬉しそうに微笑んだ。

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